祖父母との生活

2002年3月14日
 先日から少しの間実家に帰っていた。
 栃木の山奥なのだが、電車を乗り継ぎ車で少々向かった先にある我が生家には、今やあたしが日常的に生活していた頃とは違いあたしの居場所はない。なにやら来客のようなおもてなしに落ち着くどころか気も漫ろなのだ。
 朝起きてもする事は特になく、昼間も夜にだってあたしのすべきことはない。仕事から帰宅した父ととりあえずの晩酌というのがこの数日間のあたしの日課みたいなもので、両親共働きの家庭であるが故昼間家にいるのはあたしと祖父母の三人だけ。昼間はその三人で居間の掘りコタツでお茶を飲むのだ。
 何とも渋い数日間ではないか。お茶と晩酌で暮れていくなんて!
 大学入学とともに上京して以来、あたしはトーキョーに住み着いてしまい、たまに帰省しても休日なので両親が家にいて我が生家は結構にぎやかなものだった。しかし、今回は平日を挟んでの帰郷。家を出てもうそろそろで十年に手が届きそうな今、中学も高校でも滅多に見ることがなかった平日の昼間をあたしは祖父母とともに過ごすことになった。
 これは結構な困惑である。
 我がグランパもグランマも長生きの部類にはいるくらい結構な年だ。申し訳ないがそれほどの年の彼らが昼間いったいどうして過ごしているのかなんて想像もつかなかった。テレビでも見て過ごしているのだろう的な想像は可能だが、ホントにそうなのかは実際を目にしない限りは何とも言えない。そして、どんな話題で話すべきか。三人だけの空間であたしは何をどうすればいいのかまるで手だてが思いつかない。
 そして、いざその時になってみてあたしの混乱はさらに加速する。だって彼らは何もしていないんだもの。正確には掘りコタツに入ってお茶を飲んでいる。タバコを吸っている。が、それだけなのだ。テレビを見るとか雑誌を読むとかメディアから情報を急襲するということを一切しない。挙げ句会話もしないのだ。
 二人はもう何十年も座り続けているお互いの定位置に腰を落ち着けたきり、祖父はタバコとお茶を、祖母はお茶を飲んでいるだけだ。たまにカタカタと入れ歯が鳴る以外二人はほとんど音を出さない。
 電気コタツの低いうなり声の中であたしとおじいちゃんとおばあちゃん。お茶を飲んで一時間。二人ともたまに電池が切れたように動かなくなるのが、それはどうも眠っているようなのだ。そして、起きてきてまた一時間。そこにある何よりも二人はエネルギーを消費しないように生活しているように見える。まるで家から生えているようだった。
 そして、西日が窓から差し込み畳にうっすらと影を作る頃。祖父が口を開いた。
「久方ぶりにタバコを吸った。旨いなぁ」
それにあわせるように祖母がヒャヒャヒャと笑って、二人の入れ歯がカタカタと鳴った。あたしも笑って、そして程なくして母が帰ってきた。
 
 
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