パチンコ天国

2001年10月2日
 前に住んでいたアパートの近所にパチンコ天国なるパチンコ屋があった。略して「パチ天」なのだが、その天国が火災に見舞われたのがちょうど四年前。
 青春群像劇風に書くなら
「忘れもしないあの日、僕らの天国は燃えてしまったんだ」
 てなカンジになるのだが、実際のパチ天は青春群像なんて青臭い連中は近寄れないくらい勝負師の匂いをプンプンさせていて、いや、プンプンを通り越してブンブンくらいいっていたに違いないが、とにかくソコはもはや化石と呼べるくらい希少価値の指で弾くホンモノの「パチンコ」が楽しめる数少ない場所だったのだ。
 当然学生の時分などは、パチ天でのタバコをくわえながえらのパチンコがオトナの証みたいで、少しだけすがすがしい気分を味わえた。
 もっとも今になって思えば、当時のあたしが周りに漂う勝負師の雰囲気に溶け込めるはずもなく、他の客からしてみれば子供が背伸びした程度に過ぎなかったのだろう。
 とにかくそんなパチ天だが、ちょうど四年前、上にも書いたとおり火事に見舞われてしまい閉店を余儀なくされた。
 火災直後のパチ天は黒くくすんでいて、夕方になると申し訳程度に灯っていた看板も何もすべてから生気が失われて、それを見上げたあたしのココロには、喪失感だけが冷たい鉛のように落ち込んでいったのを良く憶えている。

 ところで、ごく最近のコトだ。
 仕事の都合で以前住んでいたアパートの近くを訪れた。わずか数年離れていただけなのに、ソコはまるで別の街のように感じられてなんだか少しよそよそしかった。
 パチ天は無くなってしまったろうと思っていたのにしっかり営業を再開していて、中を覗けば相変わらずの客層。火災後の閉店がまるで長めの休暇だったかの様に、看板も何も当時よりも少しだけキレイなったパチ天がソコにあったのだ。
 いかな天国だろうと休暇は必要だろうよ。そう語りたげに、寡黙な店主は入り口に立つあたしに一目だけ向けるとすぐに手元のテレビに見入ってしまう。
 一歩、店内に足を踏み入れ、少しだけキレイになった椅子に座ってみる。銀玉を弾くパチンコに触れて、さて自分はココに似合うほどオトナになったのだろうか。
 タバコに火を付けて、変わらない天国にコインを一枚入れてみるのだ。
 
 

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