あたし最近、孫悟空のキモチ分かるの。
 なんて、かわいく告白してしまいたいくらい、あたしは彼の気持ちが分かるのだ。何しろココ数日いやさ、数週間、興奮するとズキズキ痛み出す頭は、まるで緊箍児(きんこじ)をはめられた彼のようなものだ。コトあるごとに三蔵法師にナムナムとやられる彼の気持ちが良く分かるのだ。
 しかし、それほどイケナイコトをした覚えのないあたしに、反省を促す頭痛の意味が分からない。
 例の悟空さんなら、天界やら竜宮やらを荒らし回った挙げ句、石に閉じこめられ、漸く出てきた後、保護者の三蔵法師に緊箍児をはめられたのだろうから納得も出来るだろう。
 でも、あたしときたら天界も荒らしてない。竜宮も荒らしてない。そもそもそれらがどこにあるかも判らないし、何より石に閉じこめられてないのにこのアリサマです。
 サイアク。
 しかし、医学は強かった。何しろ長い年月をかけて培われた技術の結晶なのだ。現代医学の父と呼ばれるクロード・ベルナールやらアンブロース=パレやら高峰譲吉やらパスツールやら野口英雄やらヒポクラテスやら。挙げ続ければキリがないほどのたくさんの父を持つ現代医学は、その複雑な家庭環境にも負けずにまっすぐに育ってくれた。ホントに偉大なのだ。
 彼にかかれば、あたしの緊箍児なんて不思議なクスリでチョチョイのチョイというモンだ。
 なーんてタカをくくっていたら、ホントにチョチョイのチョイだった。
 あれほどの激痛が、わずか1センチ足らずのカプセルひとつで、アッという間に飛んでいってしまうのだ。逆にひいてしまうくらい、そのクスリは良く効いたのだ。
 しかし、問題点がひとつだけあった。
 ソレは、マイパートナーにどうやって説明するかである。
 まさかカノジョの目の前に出して、
「セックスするとひどい頭痛がするので事前にクスリ飲んで起きます。EDとかじゃないよ?」
 では、なんだかカッコ悪い。
 オトコのコとしてはなんとかカッコつけたいのである。むしろ、
「このカプセルは知り合いのブローカーの友達から手に入れた、セックスが数倍気持ちよくなるクスリなのだー!!」
 なんてくらいに。この場合社会的に正しいかどうかは置いておくとして。
 もっとも、あたしもいいオトナである。いかなオトコのコといえど、社会性よりはカッコ良さ重視なんて時期も過ぎたろうと思っていたのだが、いざその時になると切っ先も鈍るもので。
 ズバリ核心をついたコトは言えない。
 そのため、あたしとしてはなんて説明するかが最大の難問だったのだ。
 
 悩むところである。
 しかし、答えは出てこない。
 飲まないと出来ない。
 しかし、飲み方が問題なのだ。
 結局、洗面台を前に一人。微妙に屈めた背をベッドに向けながら神の如き早業でクスリを飲んでやろうと画策もしたのだが、意外にあっさり話すハメになった。
 そして、飲んでみてやってみて、ふとサイドボードを見てみたら、コンドームとクスリが置いてあった。その風景は、少し未来的でケミカルで物珍しかったけど、ゆっくり楽しもうかなんて余裕はあたしにはない。
 何しろ残弾数つきのセックスである。感傷に浸るより先に、
「これからどうしよう…?」
 なんて切なくなってしまうのだ。

 おしまい。
 
 

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