まさか、アレの真っ最中にアタマが痛くなるんですとは言えないよなぁ。
 道々、あたしのアタマの中はそんなコトでいっぱいだった。まさかアノ瞬間がもっとも痛いとか、ソレの最中にだんだん痛くなってくるとか。アレアノソレで一体なにを判ってもらおうというのかってなモンであるが、まさか痛みがひいて正常な判断が下せる今も、アレに関して直接表現しか出てこないなんて、そんな自分は認めたくないのだ。
 しかし、病院に着いたところで、受付を済ませたところで、お医者の目の前に来ても、横にかわいい看護婦さんが控えていようと、代名詞「アレ」に変わるになにかは出てこない。
 まいったなぁ。
 なんて、ほとほと弱り果てていたのである。
 そして、賢い諸兄には理解していただけてると思うが敢えて説明を加えるなら、コレは「その2」。「その1」をお読みいただければさらにご理解を深めていただけるだろうが、要はアレの最中にアタマの痛くなったあたしは、今こうして病院の、診察室の、お医者の目の前に座っていて、看護婦さんとはなるべく目を合わせないようにしている。と言うワケなのである。
 なにしろこれから自分が口にしなければならないであろう言葉は、ともすればセクハラ、もしくは恥辱プレイにも繋がる程たいそうなモノなのだし、出来れば診察室でなんて言いたくないと思っていたのだが、気の良いお医者は、
「どうしましたー?」
 なんてコトを聞いてしまうのだ。
 看護婦もいるのに。
 外には他の患者も待ってるのに。
 まだ太陽も出てるのに。
 しかし、そんな風に聞かれては、あたしとしても肝据えて元気に答えるしかあるまいよ。
 あたしもオトコのコであるが故、覚悟を決めて!とも思うのだ。でも、いざ言うとなると、あたしのナイーブなハートはドキドキと高鳴って、思春期の乙女が憧れの先輩の前に出たような、当然ながら乙女であったハズがないあたしには理解などできないが、まるでそうとしか言いようのないモノを抱えてしまう。
 だいいち、腹括って言ってら、ステキな看護婦さんが「きゃーフケツ!」では、あたしとしても立場がない。それ以上にそんな看護婦もどうかと思うが…、
「先生、セックスするとアタマ痛くなるんですが。特に出すときとか!」
 結局、清水の舞台から飛び降りたつもりで言ってみた。
 そして、言った後に「セックス→性交」「出す→射精」なんてリッパな日本語があることに気がついたりして、つもりのハズがホントに飛んでしまった自分に気付いたのだった。
 まいったなぁ。

 その後もあたしのココロ以外ではつつがなく診察が続き、お医者と看護婦はアレとアノとソレがより具体的になった話を黙々と聞き続けていた。アタマのどの辺が痛いのかなんてコトもちゃんと聞いてくれはしたが、むしろあたしはココロがイタイ。齢25にもなって他人の目の前でセキララに性生活を明かすのはなかなかに勇気がいる。しかも、あたしの場合は、
「アタマが痛くてセックスできません。どうしましょう?」
 なんて問題なのだ。話し終わった後には、いかんともしがたい虚脱感で胸がいっぱいだ。
 しかし、話が終わるとかのお医者様は看護婦を携えてこんなコトを言い放った。
「でもセックスしたいでしょ?」
 なんてコトを聞くのであろうか!そりゃしたいに決まってる。神様がやめろと言ったってそんなモノ無視するくらいの覚悟は出来てるが、なにも看護婦さんの居る前でそりゃないだろうというモノだ。あたしとしても、
「はぁ…」
 なんて気のない返事を返すのが精一杯である。ホントは「イエッサー」くらいは言ってやりたいのだが、看護婦さんが見ているのだ。どうにかして自分を取り繕いたい悲しいサガ全開なのだ。しかし、そんなことを知ってか知らずか、お医者様は、
「じゃ、痛み止め出しておきますので」
 そう言って、以降の検査予定を組み上げ、診察を切り上げてしまった。

 処方箋を持って薬局でクスリを購入。
 部屋に帰って見てみれば白いカプセルが10コ入っていた。
「痛くなったら飲んで下さいね」
 なんてやさしく教えてくれた薬局のお姉さんにはたいへん感謝だが、カノジョもコレがあたしのアレアノソレのためにあるとは思いもするまい。
 そして、残りのセックス回数が具体的に提示されてしまった今、次に病院に行く時期が勝負なのだ。速すぎて好き者、遅すぎたせいでロクにセックスも出来ないインポ野郎なんて思われてしまっては、今度は清水の舞台に上がることすらまかりならなくなってしまう。
 
 つづく。
 
 

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