季節物一品

2001年6月26日
 梅雨があければ本格的な夏がやってくる。そして、この時期になるとベープやら金鳥やらのCMがテレビをにぎわし始めるのだ。季節モノのCMとでも言おうか。年に二度、夏の終わりとクリスマス後にやってくる妊娠検査薬のCMやホッカイロのCMなどもそうだろう。それらはある種の寂寥感やノスタルジー、加えて風流を携えている。間違いなく日本の風物詩の一つなのだ。
 特に蚊取り薬のCMなどは無駄に夏休みや虫捕り、キャンプなんて雰囲気を強調する。そのため、夏休みなんて無い。虫も捕らない。完全にインドア生活の染みついたあたしにしてみれば、まさしくノスタルジーの塊なのだ。子供時代を思い出す。
 しかし、だからというわけではないが今年は蚊取り線香を買ったのだ。あのグルグルと渦を巻いた形のアレだ。
 あたしの郷里はだいぶ田舎の方なので、夏になるとそれはたくさんの蚊だの虻だのが河原やその辺りを飛び回る。身体中虫さされ跡だらけになっても走り回ってキンカンのお世話になったことを思い出しながら薬局で一箱34巻入りと書かれたそれを手に取ったのだが、その蚊取り線香という呼び名にはもう一つ思い出があった。
 といっても蚊取り線香そのものではなく、線香の部分だけなのだが、あたしの実家では毎朝仏壇に線香を供えるという慣習があって、あたしも物心つく前からそれをしていたので、線香の香りはひどく懐かしいモノなのだ。
 そんなわけで、あたしはその蚊取りの効能を持つ線香をブタの置物と共に購入した。そして部屋に帰り、早速使ってみたのだが、やはりあのグルグルから煙が立ち上る様は、ブタの置物から煙が昇る様は、なんとも心地よいモノなのだ。匂いの方は記憶の中の線香にはほど遠いが、その辺は蚊取りの効能を考えれば楽に許せる範囲だ。
 音楽を聴きながら、仕事をしながら。テレビを見ながら、あたしはグルグルと共に一日過ごした。一巻き終われば、ちゃんと二巻き目をセッティングし、グルグルと共に時間を過ごす。それは日本人に生まれた幸せをしみじみと感じる時間だった。
 しかし、時の経過と共に感じる違和感。夜中も丑三つを過ぎた辺りであろうか、どうも気分が優れない。なぜだろう?なぜだろう?この時間まで起きてるのはいつものコトだ。なぜだろう?なぜだろう?
 そして目に付くブタの置物。目から鼻からじんわりと蚊取りの煙が昇っている。ふと蚊取り線香の箱に目がいき「使用上の注意」を読んでみると、そこにはこう書いてあるではないか。
「本品はピレストロイド系の殺虫剤です。閉め切った部屋や狭い部屋で使う場合はときどき換気して下さい」
 そうなのだ。あたしはカンチガイをしていた。蚊取り線香は、蚊の取れる線香ではなくて、線香型の蚊取り薬なのだ。閉め切った部屋で使えばピレストなんとかを含んだ煙が部屋中に立ちこめるだろし、それが24時間以上ともなればタダでは済むまい。まったくモノには限度があるのだ。煙草と蚊取り線香の煙で白くなった部屋を換気しながらあたしは思う。
 危うく風流と心中するところだった。
 
 

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